北稜の勇者たち

 俺は4年ほど前まで、しょうもないにも程があるような海賊だった。  生まれた瞬間にそういう人生が用意されてたみたいなもんだ。モノゴコロってやつがついたときにはオヤなんていなかったし、代わり"ピッカーズ"の一員だった。ピッカーズってのは、俺みたいなガキばかり集めたコソドロ集団だ。リムサの裏町に何十年も前からあるらしい。そこで俺たちは大人に言われるとおりに、スリから置き引きから何からと、仕事をこなして食わせてもらってた。  その先にある将来なんて知れてる。俺は、海賊になった。

 ガラのこまかい俺に力仕事はできなかったが、物覚えのいいのとマメなのを買われて、ご立派なご職業でなら"経理"と呼ばれるような仕事を任された。  俺は馬鹿じゃないから金をちょろまかすなんてことは絶対にしなかった。海賊が何言ってるって感じだろうが、少なくとも身内にはきっちり義理も通したし掟も守って暮らしてた。それが賢く生きるってことだ。  ところがそんな人生はある日、脳天から足元までいっぺんに砕けて消え去った。


 おかしらはゼーヴォルフのおっさんで、副頭もそうだった。二人は叔父と甥だって話だった。  俺はある日船長室に、俺と同じララフェルの女の子が入ってくのを見た。どっかからかっさらわれて来た小娘だろうって感じで、ぶるぶる震えて、真っ青だった。俺は俺のそれほどぶっ壊れてなかった常識で、酌でもさせられるんだろうな、しくじって殴られたりしちゃイチコロだ、そりゃ怖いよなと思って、なんてこともなく見送った。  けど俺はそのあくる日、ゴミ当番になって、ゴミ山の中にその子の死体を見ちまった。

 船の中に置いておくと面倒なゴミを、適当に海へ棄てるのがゴミ当番だ。生ごみや空き瓶、食い残し、なんでもかんでも一緒くたにずだ袋に入れられて、そいつを船べりから放るだけなんだが、これがけっこうなデカさだから普通はガタいのいいのがやる。だがその日はなんのかんのでデカい奴等が動けなくて、俺と新米のミコッテ坊主に回ってきた。  ルガディンなら担ぎあげて投げ捨てるだけのことが俺たちには大仕事で、うっかり落としたはずみに、ずだ袋の口が開いちまった。  最悪だと思ったが、臭いゴミと一緒に転がり出てきたのは、昨日見かけた小娘の死顔だった。いったいなんだと引きずりだすと、彼女はまっぱだかで、股から腹が真っ赤になって裂けていた。

 死んでたのがガラのでかい女だったら、それとも、殴られたとか斬られたとかで死んでたなら、そいつらの不幸なんだ、不運なんだって思っただろう。けど、ララフェルだぞ? ルガ野郎の十分の一もない、ヒューランに言わせりゃ「幼児と変わらない」ような俺たちの女を……。  どうかしる。イカれてる。まともじゃねぇ。  ミコッテ坊主は吐くだけ吐いたら海に飛び込んで逃げた。  俺もそうしようかと思ったが、そういや船倉に他の女がいたよなと思い直した。  俺はいいことなんか一つもしたことなかった。だがそんな俺でも、船に積まれていつの間にかいなくなってる女たちの末路がこれだとしたら、気色悪い以外のなんでもなかった。  だったら俺は、“最期"くらい、一つくらいいいことしてやろうと決めた。

 俺はまず、小僧はゴミと一緒に海に落ちたと嘘をついた。俺たちじゃひどく苦労することは分かりきっていたから、別に怪しまれなかった。  それから、どうにかして女たちを逃がそうと計画を練った。のんびりしてればアウラのあの子も、ミコッテのあの子、そしてまたララフェルのあの子、みんながきっとあんな目に遭わされる。  航海予定だとかなんだとか知れる立場だったのが良かった。できるだけ陸に近い場所を選んで、ちょっといい酒仕入れといたので酔い潰して、小舟を降ろして逃げ出した。  前もって話しとくと、嘘の下手な女がいたらその様子からバレると思ったから、その日その夜その時いきなりだ。上手くいくかどうかは分の悪い賭けだった。けど、幸い波は低かったし天気も良好、それに、捕まってた中に姉御肌なルガ女がいて、そのコが他のコらの先頭に立って誘導してくれたし、漁師の娘だとかで相当上手く船を操ってくれたから、俺たちは無事に陸地に逃げついた。  女たちはとっとと帰れと追っ払い、俺はイエロージャケットに飛び込んだ。

 寄港地で待ち構えて、まずは臨検って名目で乗り込んだらしい。で、積荷だなんだはどうせリムサだ、そこそこお目こぼしもされるが、あちこちに殺しの証拠も残っていて、それと俺の見たもの、うすうす勘付いちゃいたが怖くて知らんふりしてた連中らの話とで、かしら二人は処刑が決まった。  ところが副頭のほうが処刑場から逃げ出した。  親父のほうはともかくこいつが極めつけにヤバい野郎で、ああいうことやってやがったのももっぱらこっちだったらしい。親父のほうにはそんな趣味はなく、ただ、殺したからってなんだくらいで勝手にさせてたんだろうってことだ。  とにかくそれで俺は一気にヤバくなった。女を逃し、チクったんだから当然だ。

 殺される覚悟でやったこととはいえ、いざ追われる身になると、俺はどこにいても何をしててもあいつが現れるんじゃないかと怯えていた。知り合いも信用できなかった。あいつに金はないだろうが、脅しで言うことを聞かせることはできる。いつ誰が俺を売らないとも限らなくて、誰を頼ることもできなかった。  せっかく一ついいことをして、女たちは無事で、だから俺ももう少しくらい、もうほんのちょっとくらい、悪いだけじゃない人生ってのを送ってから死にたくて、必死に逃げる先を探した。

 見つけたのが戦場だ。  あのイカレ野郎もきっと追ってこない、この世の地獄みたいな戦場。  俺はニワカ傭兵になり、イシュガルドへと逃げ込んだ。  そして、一番危険で、一番誰も行きたくない場所に行くことにした。  それで良かった。たとえそこで死ぬんだとしても、あんなクソ野郎に捕まって嬲り殺されるより絶対にマシだし、たとえよその国だろうと、国を守るために戦うっていうまたちょっといいことしてから死ねる。俺は、自分が最期に生きる場所、そして死ぬ場所を見つけたと思った。

 クソブタ野郎がどうなったかは知らない。あれから二度と噂も聞いてないし、その影も気配も感じていない。俺がイシュガルドに逃げ込んだとこまでは分かったとしても、その先の行き先に乗り込んでくるほど命知らずじゃなかったか、それともどこかで野垂れ死んだか、捕まって処刑された、そのどれかに違いない。  なんにせよ、最初は後方支援、いずれ前線にも出るようになって2年ほど戦った。戦場に出たその日に死ぬ奴ってのもいるが、俺はとにかくラッキーだったんだろうし、ガラがこまかいってのは得だった。俺なら潜り込めば身を隠せる茂みも、ルガ野郎じゃ頭くらいしか入らないんだから。

 それに、そこは確かに地獄には違いなかったが、俺が今までいたどこよりもあったかい地獄だった。  俺はそこで、心から"おかしら"って呼んでついていきたい人に会った。姉御と慕って蹴られてもいい人にも巡りあった。こんなに気が合う奴なんて初めてだってくらい気の合う奴にも出会って、そして別れたりもした。  たった2年だが、入れ替わりの激しい戦場で、俺は古株、ベテランにカウントされるようになった。  が、そこで俺も悪運も尽きた。それとも悪運のおかげで死にだけはしなかったのか、まともにブレス食らって丸焼けになって、命はあったけど全身包帯の化け物みたいな姿になって、それでもまだ生きていた。

 こんな焦げダルマになった俺にもまだできることがあるなら、おかしらのチカラになりたいと思って、今はおしからの領内で働いている。  それで俺はこの昼、新しく送られてきた新兵を出迎えることになっていた。  包帯ぐるぐるでかろうじて右目が覗いてるだけ、みたいな俺は不気味だろうが、焼けただれたナマ顔見るよりはマシだろう。それに、これがここの現実だ。自分たちがこれから行く場所、自分たちがこうなるかもしれない未来を垣間見るのにはもってこいだ。

 俺は送られてきた名簿を見ながら、キャリッジから降りてくる奴を一人ひとり確認していった。  先頭に立って降りてきたのは、やる気のある若造だった。って言ったって俺より10も下じゃないだろうが、こいつが実際に戦場に出た翌日、どんな顔してるだろうなと思う。この自信とやる気は間違いなく木っ端微塵になってるとして、がたがた震えてオカーチャーンになってるか、それとも怖い中でもなんとか戦おうとしてるか。  おカタい表情のねえちゃんは、身上書を見るかぎり男爵家のお嬢様らしい。が、食器より重い物なんか持ったこともないなんてのじゃなさそうだ。青ざめてはいても足取りはしっかりしてて、騎士としてガチで訓練してきたんだろうって気がする。そんなねえちゃんがなんでこんなとこに来たのか、理由までは書いてないが、別に不思議じゃない。俺が姉御と決めたメッチ姐さんだってデュランデル分家のお嬢様だったんだ。いいご身分なのに地獄の最前線に、送られるにしたって自分から来るにしたって、なにかワケはあるんだろう。  それからリムサから来た傭兵二人組。リムサって聞くとつい身構えちまうが、今になるとどいつもこいつも、ここにいる誰より怖くないなと思う。幸いこいつらは普通に稼ぎに来ただけみたいだが、地獄ってのをナメてるのは間違いなかった。それに、俺が見た感じじゃ大して腕も立ちそうにない。

 そんなふうに見ていくと、8番目に降りてきたのは、おっさんてよりじいさんに片足突っ込んだみたいな奴だった。なんかもう死んでるんじゃないかってほど虚無った顔つきだ。けど、そのくせ妙に足元はしっかりしてる。俺はどっかでなんかこんな奴見たことあるなと思って、思い出さないまま手元の書類に目をやり、「あ”!?」とちょっとだけ固まった。 『オドネル=エスバイン』  名前は別にどうだっていいが、その次だ。 『32歳』  ないないないない。どんな老け顔だろうと、これはない。  ないが―――。 「よし、次」  俺が言うと、じじおっさんは操り間違えた糸人形みたいにぎゅるっと頭だけ俺のほうを向けた。

 こんな場所に来る連中に、事情がないわけがないんだ。  傭兵みたいに自分から選んで来る奴を別にしたら、みんな何かしら抱えてる。  ヤバい奴から逃げてきた、なんて俺みたいなのはマシもマシ、マシマシのマシのマシだ。だいたい俺は自業自得だった。クソ外道だろうとかしらを売れば報復されるのなんて分かりきっててやったことだ。居場所がないのも匿ってくれる奴がいないのも、それまでろくなことしてこなかったんだから当然だろう。  けど、クソみたいな貴族のボンボンに言い寄られた挙げ句テゴメにされて、親の仕事を盾に取られたせいで逆らえもせず、さんざん尻貸した末路に、飽きたし始末が面倒だからとここに送り込まれたにいちゃんがいる。  メッチの姉御は親殺しだし、俺が"シンユウ"なんて言葉を本気で感じたあいつは、信じてたダチに裏切られて莫大な借金を背負わされ、取り立てから逃げて逃げて流れ着いたと言っていた。  60過ぎ、エレゼンなら70過ぎだろってじいさんが32歳を自称するのにだって、きっとなんかわけがある。ただそれだけだ。  それを偽証だなんだと罪にして、だから? そんなこと、ここの誰も望んでない。

 後になって知ったそのわけは、息子の身代わりだった。  貴族のボンにいたぶられてた小僧を助けて、恨まれた。ねちねち嫌がらせをされるのには耐えていたが、ある日、職人が飯食っていく道具でもある腕を折られて、暴れた拍子に突き飛ばした。そいつはせいぜい転んでケツに青タン作った程度だったが、こっちはめでたく暴行罪だ。  なんのかんのと余罪がついて、けど、それにしたってまともな法じゃせいぜい"訓告"しかできないから、“奉仕"ってことで北稜送り。  イシュガルドじゃよくあることだ。今までに何人もそんな奴を見てきた。  で、そんなふうにして集められた奴は、「北稜に送られる」としかお互いを知らない。だからその集合場所に、息子を逃して親父がやってきても、このおっさんがなんかしたんだなとしか思われないってわけだ。ただ、どこかで必ず身元のチェックはされる。バレたらそこで大問題になる。死の最前線じゃ、問答無用で処刑、あるいはそれと変わらない戦場に放り出されるかもしれない。だとしてもそのときには息子は遠くへ逃げた後、それでいいってわけだ。

 あのときのじいさんの、もう死んだみたいな、でも妙にしっかりした様子。あれは、死ぬのは怖くても覚悟はもう決まってるっていう人間だ。  “船"にいたとき、サメの泳ぐ海域で海に飛び込んで、“しばらく"したら引き上げて無罪っていう裁判……処刑方法があった。大抵の奴は泣きわめいて暴れて、無理やり放り込まれて食われるんだが、二人だけ、自分から板縁の端まで歩いて行って、飛び込んだ奴を見たことがある。  死ぬのが平気だってほどガンギまった豪傑じゃない。死ぬのは怖い。けどそれを越えるなにかで覚悟して、死の淵へと一歩一歩 歩く。そういう、生と死の間の人間の様子だった。

 じいさんはもちろん戦えないし、走ったり登ったりも満足にできるとは思えなかったから、村での仕事に就いた。もとから農家だったから即戦力だ。  じいさんはずいぶん拍子向けしたみたいだった。そりゃそうだろう。死ぬために送られるも同然のはずが、実際に来てみれば戦場どころか、北稜に入ることすらなかったんだ。そのうえ、今までと変わらない農作業をするだけでそこそこちゃんとした共同宿舎に住めて、着るものも食うものも支給される。  はるか遠い都にいて、実際の北稜を知らない人間が勝手に想像するより、ここはずっとまともな場所だったわけだ。もっとも、後方支援だろうと北稜に入れば、いつ竜に襲われても不思議じゃないんだが。

 なんにせよじいさんはほっとしたはずだった。  少なくとも俺たちは、良かったなじいさんとしか思ってなかったし、思ってたよりずっとまともな場所だろと、別に俺たちの手柄でもないのに得意げだった。  ―――だが、3ヶ月ほどしたある日、じいさんは宿舎の裏手の柊の枝で、首をくくって死んでいた。

 じいさんの部屋のベッドサイド、私物を入れた小デスクの上に、一通の手紙があった。  それはじいさんに届けられたもので、差出人はじいさんのばあさん、つまり奥さんからのものだった。  息子(手紙の中じゃ"じいさん"ってことになってる)が死んだって報せだった。  わけは書かれていなかったが、心細くてどうの、どうか早く帰ってこれないかこうの、神は何故うんちゃらかんちゃら。  俺が思うにこのばあさんはタフだ。息子が死んで悲しんじゃいるだろうが、こんなくだくだ書き連ね、心細い自分のために帰っきてくれなんて言う厚かましさと根性があるのは間違いない。  けどじいさんは、そんなに強くなかったんだろう。

 息子が死んだのがそんなにショックだったのかと、俺は思った。  けど、村で医者やってる元傭兵が、検死の後で言った。 「身代わりなんかならなきゃ良かったと思ったんじゃねえかな。そうすりゃ息子は、こんなふうにここでちゃんと生きてたかもしれねえと」  じいさんは年が年だから、時々は体調の悪いこともあって、それでセンセイのとこに来てたそうだ。医者ってのはやっぱり患者から信頼されてなんぼだし、信頼されれば他の人には言えないようなことも言える、エラい人なんだろう。じいさんはセンセイに、申し訳ない、と言ってたそうだ。

 戦わされて、恐ろしい目に遭って、ひどい環境で、生きて帰ることなんか到底できない。それが北稜軍だとばかり思っていた。だからこそ息子の代わりに自分が来た。だが実際に来てみると、戦っているのは元からある程度の戦闘能力と、戦う意志がある者ばかりだった。  戦闘経験のない商人や職人が兵士として前線に出ることはない。せいぜいで北稜の最南端、最後方の拠点が行き先だ。  そこでは、鍛冶師や石工であれば支援職として大事にされるし、料理人も欠かせない。掃除婦や洗濯女、墓掘り人足や神官も重宝される。もし本人が自分の意志で選ぶなら、夜の相手も決して蔑まれる仕事ではなく、大切に扱われた。  年寄りである自分は北稜に行くことすら免除されて、家にいたときよりも手厚いくらいの生活ができている。  ここで戦うことを絶対的に強いられるのは、“戦闘記録”、“戦果"を軍本部に提出しなければならない、そもそもの騎士や騎兵だけなのだ。

 だからじいさんは、身代わりになったことがバレればそれもまた罪になるのに、こんな馬鹿な真似はしないほうが良かったんじゃないかと後悔していた。  息子はそこそこの腕の石工だったから、戦地でも重宝がられ、だからこそ守ってももらえて、今の自分のようにつつがなく暮らせていたんじゃないかと、センセイはそんな話を聞いていた。 「まあ、若いとなるとな。村にとどまるのはさすがに難しい。いくらボスでも、そこまで庇っちゃやれねえさ。だとすりゃここほど安全なわけじゃねえよと、言ってはおいたが……。なあ、シシ。こうなっちまうと、思うだろうな。息子がこっちに来てりゃ、生きてたんじゃねえかって」  身を隠し、怯えながら生きることになる逃亡生活のしんどさ、不自由。俺もよく知ってる。俺はそもそもが裏町のクソガキで、海賊なんてやってたくらいだからそこそこ荒波にも揉まれてたが、貧乏なイシュガルド平民でも、真面目に仕事して暮らしてた奴には、きっともっとつらかっただろう。  そんな中でトラブルに遭ったのか、それとも体でも悪くして死んじまったのか。なんにせよ息子ってのは逃亡生活の中で死に、じいさんはここで生き延びた。  それがつらくって、死んだのか。

「やりきれねえなぁ」 「……ああ。やりきれねえよ、センセイ」  ここでの暮らしが思ったよりずっとまともなのは、北稜送りになる理不尽な罪人を、まともな人として暮らさせるためだ。本物の罪人ならともかく、貴族の傲慢や横暴のせいで殺されに来る連中を、少しでも無事に送り返してやろうとするおかしらの温情、策略だ。  だがそのせいで、ここがまともな人間の暮らす場所だったせいで死ぬ奴がいるなんて。 「こんなこと、おかしらにゃ……」 「いや。言う。言わなきゃならねえ。さもなきゃ次が防げねえ。そういう人だろ。知らん顔はしたかねえっていうよ。それに、そういう人だぜ。自分の手がどんなにズタボロでも、おまえらの手より頑丈だって、笑って手を伸ばす。それで実際、そういう人だ。伸ばした手は引っ込めねえ、掴んだ手は放さねえ。途方もなく強ぇんだよ」

「……ん。そうだな」  だから俺たちはこうしてここに残ってる。  おかしらは、自分が労られたり癒やされたりするのは望まない。だったらその代わり俺たちも一緒に手を伸ばす。それだけが、一緒に戦うことだけが俺たちからおかしらにできることだから。  リムサの裏町で汚い鼠みたいに生きてた俺が、ゴミクズみたいな海賊の手下だった俺が、けれど今は言える。ちっぽけな傭兵の、今じゃなり損ないみたいな事務員の、包帯ぐるぐるな焦げダルマでも、俺は北稜軍の兵士だぞ、俺はここに生きてるぞって。  じいさんにもそうなってほしかった。生きて帰って、無事に嫁さんや息子とまた暮らせるようになってほしかった。  それが叶わなかった悔しさは、次へ繋ぐしかない。  だから俺はセンセイと、もっと"流刑人"には目を配らなきゃいけないって話をすることにした。それが俺たちにできること、俺たちの戦いなんだからーーー。