スカラ迷宮 1

 『アラミゴが帝国支配から解放された』。  その報を僕はシャーレアンで聞いた。  ああそうか、と思っただけだった。  20年以上離れていれば、今更そこが故郷だという感覚は薄い。まるで他人事でこそないものの、喜びや感動といったものは希薄……というより何もなく、ただぼんやりと、でも僕には関係のない話だよなと思った程度だった。

 関係ない話だ。だが本当に微塵も関係のない話なら、「関係ない話だ」とさえ思わない。だから実際には関係がないわけではないし、まったくの無関心でもないということだ。  だが、だとしても、だからなんだと? 今更僕に、あの土地に戻ることに意味なんかあるのか? 戻る理由なんてない。そもそも「戻る」という言葉を使うべき、使っていい場所なのか。仮にその言葉を使うとして、僕はアラミゴに、戻る資格があるのだろうか?  いや。きっとない。ないならないでいい。……本当にいいと、心底からそう思っているならやっぱり、こんなふうにあれこれ考えないんじゃないだろうか。

 この一週間、油断するとそんなふうに鬱々と考えてしまう。“家"ではそれを出して家主を心配させたくなかったので、本を読んだり家事をしたりとどうにか追いやっていた。その代わり外に一人でいるときに浮かんでくることになり、とうとう今日、人のいい教授からどうかしたのかと声をかけられた。  嘘は、息を吸うくらい自然につくか、さもなければ綿密な計算のもとにつくかだ。取り繕うためのおざなりな嘘なら、つかないほうがいい。ましてやその人はこのシャーレアンで僕が最も尊敬する老教授で、僕は正直に今の気持ちを話すことにした。

 僕は見たとおりハイランダーで、生まれは実はアラミゴだ。両親はアラミゴ人だった。だが僕は自分のことを「アラミゴ人」だと自己紹介したことはない。この魔法大学に編入させてもらったときも、「ラザハンから来た」と言っている。事実、今の僕の国籍はラザハンにある。  出生の場所を言わない理由は、この20年、一度もアラミゴの土を踏んでいないからだ。  僕がアラミゴの、両親のもとで育ったのは10歳くらいまでだ。そこから先、シャーレアンに留学するまでの15年間はラザハンで過ごした。そしてその間一度もアラミゴには戻っていない。  もしアラミゴという国がこの年月、平和で何事もなかったなら、たとえ長い間無沙汰にしていたとしても僕は自分を「アラミゴ人だ」と感じただろうし、言っただろうと思う。だが現実は違う。この20年、アラミゴはテオドリック王の暴政からガレマール帝国の支配と、苦難の道を歩んできた。そして僕はその苦難を、一瞬たりとも味わったことがなかった。

「なるほどのう。しかし、アラミゴがそのような歴史の中にあることは、ラザハンにいても当然聞こえてきたじゃろう。帰ろうと思ったことはなかったのかね? ましてや今の話からすると、君はどうやらご両親と離れて一人でラザハンに渡ったようではないか。ご両親のことが心配ではなかったのかね」  教授の口ぶりには、「心配にならなかったとは薄情だ」と責めるような気配は微塵もない。当然心配だったろうに、それでも戻らなかったのは何故かと問うような調子だ。  もちろん異国にいた僕の耳にも、アラミゴの話はいろいろと聞こえてきた。テオドリックがラールガーを祀る星導山を焼き討ちしたこと。革命が成功しテオドリックが処刑されたこと。そして、ガレマール帝国に支配されたこと。今もこうしてシャーレアンにいて、ようやく解放されたことを知った。

 ラザハンの、父の友人である外交官の家に預けられ、まだ三ヶ月もたっていなかったと思う。星導山に起こったことを聞いたとき、僕は"お山"のモンクたちのことに続いてすぐ家族のことが心配になった。飛んで帰って無事を確かめたいような気持ちになったし、その感覚は今でも覚えている。  僕がそこまで心配した理由は、彼等がお山にいたからじゃない。  僕の家の男子は、代々アラミゴ王宮に仕える官僚だった。当時の父は今の僕と変わらないような年齢だったから、それほど高い地位にはいなかった。だが祖父は、王に対して直接口をきき意見できるような立場にいた。最高官僚の一人だ。それはつまり、それだけテオドリックに近い位置ということだ。  そして祖父も父も、不正や怠惰、私利私欲で政治をすること、商売をすることを嫌った。良く言えば高潔な政治家であり、悪く言えば融通のきかない厄介な御意見番だ。テオドリックの政治が間違ったものになるなら、決して黙ってはいないだろう。  神聖なお山を焼き討ちし、修行僧たちを皆殺しにするような狂人だ。そんな相手に意見したらどうなるか。僕が恐ろしくなったのは、そう考えたからだ。

 だが僕は帰らなかった。ラザハンでの後見人になったおじさんとおばさんが、絶対に駄目だと帰らせてくれなかった。  そもそも僕がラザハンへ行かされたこと自体、テオドリックの暴虐に巻き込まないためだった。  祖父はテオドリックを間近で見ていればこそ、あの男がまともでないことも察していたのだろう。それでも間違いを正さず黙っていることなどできないが、自分に対する怒りや嫌悪を家族にまで向けられては堪ったものじゃない。特にほんの子供である僕は巻き込みたくなかった。だから祖父は最初、僕をお山に預けたのだ。お山ならいくらテオドリックでも手は出さないだろうと。  だがお山にいたのは2年だけだ。2年ほどして僕はラザハンに行くことになった。

 理由は、教授にも言わないが、この目のためだった。  お山で修行するうちに、僕には"気”、エーテルを視る力があると知れた。いや。いつも当たり前に視えていたから、他の人には視えないものだとさえ知らなかった。それが特異な能力だと教えられたと言ったほうが正確だろうか。  僕は相手の体を巡る気の流れから、次の動きを知ることができる。右腕へと意識が、力が、気が流れていくのを視れば、右の拳が来ると分かる。そんな具合だ。そして、もし左の膝で気の流れが滞るなら、そこに癒えていない傷かなにかがあるとも知れた。  それはたしかに戦闘において有利な力だが、お山の僧たちは祖父に、僕に医術を学ばせるよう勧めたのだ。  だがそのことは、たとえ教授にも言おうとは、言うべきだとは思えない。

「おそらくですが、彼等には山も安全ではないと、予感があったのではないかと思っています。確証があるわけではないし、万一襲撃されるなら守り手は多いほうがいい。だから特に理由のない者を山から出すようなことはしなかった。ただ僕は子供でしたし、他の子たちに比べて経済的に恵まれていました。渡航させるだけの費用も簡単に作れれば、外国に人脈もあって信頼のできる預け先も見つけられました」 「それで君をラザハンへと逃れさせたというわけじゃな」 「僕は、そう思っています」

 幼い頃の僕は、いずれ祖父や父のように官僚となるべく、普通の子供よりは相当に高度なことを教えられていた。だから僕には、自分の感情は感情として、最善の道を理性的に選ぶよう、自制する力があった。  僕は祖父や父、母の心配と、その結果選んだこと、そして他人の子である僕を涙目で引き止める"おじさん"の言うことが正しいと理解できた。  家族の願いは、僕が無事に生きること。厳しかったけれど頼もしく、優しかったモンクたちの願いもそうだろう。だから僕はそのままラザハンで暮らした。  だがその頃はまだ、アラミゴがどうなったか、両親や祖父は無事なのか、気にならない日はなかったし、毎晩寝る前に短い祈りも捧げていた。今はまだ子供で無力な自分だが、力をつけたらいつか国に戻ることができ、家族の力になれるかもしれないとも、思っていた。

「いつか必ずと、ずっと思っていました。革命が成功しテオドリックが倒されたと聞いたときには、もう明日にもアラミゴへ帰らねばと思ったくらいです」 「じゃが実際には、帰ることなく過ごしたのじゃな」  教授のおっしゃるとおりだ。  僕が15のときだ。出先でその報を知った僕は家に飛んで帰り、おじさんに頼んでアラミゴ行きの船便を予約してもらおうとした。早足がどうしても駆け足になるその帰途で、けれど僕はもう一つ別の話を聞いてしまった。それは、テオドリックとともに、彼に従っていた官僚たちも処刑されたということだった。

 その瞬間に僕は考え、そして結論した。  祖父も父も、非道や不正を許せない高潔な人間だ。そんな人間を、あの暴君が生かしておくとは思えない。  もし彼等が信念を曲げて生き延びることを選んでいたとしても、その場合は民衆に処刑されたことになる。 「つまり、どちらにしても僕の家族はもう生きていないのだろうと」  残りの道のりを重い足で帰ると、僕はおじさんに、知っていることがあるなら全部教えてほしいと懇願した。そして、2年前からずっと、父と連絡が取れなくなっていることを聞かされた。

 おじさんは泣きながら謝ったが、僕におじさんを責める気持ちは欠片ほどもなかった。言わねばならないと思いながらも、言うに言えない。そんな葛藤を抱え続けたのだから、おじさんもつらかったはずだ。その重荷を下ろすためにも、知っていることは全部話してもらうことにした。  と言っても、誰にも知られないようにしなければならず、手紙をやり取りした回数は3年でたった5回。僕はその手紙、荷物に紛れ込ませて届けられた小さな紙切れをそのまま見せてもらった。  中の一枚に、祖父が行方知れずになったと書かれていた。問い合わせると重要な仕事に人知れずついてもらったと言われるが、真実とは到底思えない。『スカラに落とされたのではないかと思っている』と、父は書いていた。  最後の一枚には、狂気の王に逆らう恐怖と、従う苦悶が綴られていた。自分はどうすべきなのか、ほんの数行の間に父の懊悩が溢れ返っているような気がした。

 父は、テオドリックに逆らって殺されたのか。それとも従って生き延びることにしたものの、それを恥じて、そしておじさんに万が一にも類が及ばないようにと連絡するのをやめたのか。  どちらにしても祖父はおそらくだいぶ前に殺され、父はテオドリックでなければ民衆に殺されたのだろう。  母について書かれたことは一度もなく、それがどういう意味なのか、当時の僕には分からなかった。だがおじさんは察していたと思うし、今の僕にもなんとなく分かっている。語れることじゃなく、語りたいことでもないし、語るべきことでもない。具体的などんなことかはともかく、そういうことなのだろうと。  お母さんはどうなったのだと僕に問わせないためだったのだと思う。おじさんは、「お母さんのことも、残念だが」と言った。そのときの僕は父も祖父もなんらかの形で殺されたのなら、母もそうなのだろうと思った。  おじさんは僕に、アラミゴに戻りたいかと尋ねたが、家族のいない"ただの土の上"に戻る理由はなかった。僕が首を横に振ると、おじさんはどこかほっとしたように、それでいいと言うように頷いてくれた。

 僕にとってはただの土になったアラミゴだ。  だが僕はそれから間もなく、その国に心底失望し、軽蔑し、自業自得だと嫌悪するようになった。  そう言うと教授はさすがに眉をひそめ怪訝な顔をする。とてつもなく頭がよく経験も豊富な教授でも、人の心のなにもかもが分かるわけではないようだ。 「ご存知かと思いますが、アラミゴの革命軍の背後にはガレマール帝国がありました」  資金や軍備の支援をしたのが帝国だ。革命軍はその後押し、魔導兵器も借り受けてテオドリック率いる王立軍を打ち破った。  それが帝国の策謀だったことは、今では自明のこととして記されている。  テオドリックはたしかに狂人だったが、軍事の才能には恵まれていた。だからこそ彼が従える王立軍は精強で、国内の反乱を制圧するだけでなく、北方のガレマール帝国に対して一切の侵略を許さなかった。  だから帝国は戦力に劣る革命軍に金と武器をくれてやり、王立軍と互角に戦わせた。あくまでも互角にだ。それによって双方を疲弊させ、消耗させ、何千という兵士を殺した。そうして弱りきったアラミゴに攻め込むのは簡単で、侵略戦争は二ヶ月もかからずに終結している。

 僕は、革命軍に政治家はいなかったと思っている。  彼等は英雄的な革命家だったかもしれないが、目先の敵しか見えていなかった。帝国の策略に気付かなかっただけでなく、自分たちの感情や正義を理由に、テオドリックについていた官僚たちまで殺した。 「政治家ならば、そこにどんな憎悪や憤懣があるとしても、相手に罪があるとしても、利用できる力は利用して国を守るでしょう」  だが革命軍は正義を掲げて政治家を殺し、アラミゴという国から政治のできる人間を消し去って、軍事力だけでなく知謀までなくした。その結果、国と国とが戦ってたったの二ヶ月で決着し、あまつさえ圧倒的に不利な条件で一方的に支配される、そんな馬鹿げた終戦になった。

 僕から見れば―――もしかしたら彼等の手で父を殺されたのかもしれない僕からすれば、アラミゴが被った支配は自業自得だった。  正義や感情を後にして政治家たちを生かし、働かせる。それができていれば、軍事力ではどうしたところで抗えなくなっていたとしても、机上の駆け引きはできた。降伏の条件にせよなんにせよ、今少し押し返せるものもあったはずだった。  アラミゴがどんなに酷い支配を受けていたとしても、それは自分たちのしたことの、愚かさの報いだ。憐憫は覚えるが同情はしない。どうなろうと興味もない。  だから僕はそのままラザハンに、今では父と呼んでいる人のもとにとどまって、アラミゴのではなくラザハンの医者になろうと決めた。

「そうか」  と言う教授の目には、僕の痛みに対する共感と理解だけがある。十分に感情的な僕のアラミゴへの反感に、意見するような気配は何もない。ただただ穏やかに、僕の感情も結論も受け止めてくれる。そんな人だからこそ、20年来誰に語ったこともないこの話を聞いてもらおうと思ったし、その判断に間違いはなかったようだ。 「言い訳をするようですが、そう憤ったのはもう20年近く前の話です。愚かだとなじる僕自身も人並みに愚かでしょうし、ずるい狐に騙された純朴な犬を笑っても仕方がない。皆その時々で精一杯に、これでいいはずだと全力を尽くしてきた。その結果が必ずしもいいものとは限らない。それだけのことでしょう。だから今はもう、アラミゴに対する反感はありません。ただ、だからと言って愛国心もない。帰る理由もない。―――つまり、“ただの土”、そこに戻ったということです」

 怒り続けるほどの執着もなく、次第に関心をなくした。僕の目の前には僕自身の人生があり、問題もあった。それに取り組むほうが大事だった。  今では父と呼んでいる、10歳からずっと僕を養ってくれているおじさんは、目が悪かった。有能な外交官でまだまだ若かったのに引退したのが、眼病のためだ。その目が次第に悪化していくのを、僕は気の揺らぎ、そして希薄さとしてずっと視てきた。恩返しとして、そしてただ単純におじさんもおばさんも好きだから、なんとか治してあげたい。それが無理でも悪化を止めたい。僕にとっての最重要項目はそれだった。  アラミゴのことは、大きな出来事がない限りラザハンの街中で噂にのぼることもなく、僕は自然と気にかけなくなっていった。  5年前、父はとうとう全盲になった。僕の努力は実を結ばなかったわけだが、だからこそ医術者としてもっと確かな知識と経験、知恵を身に着けたいと思い、 「こうしてシャーレアンにまで来ました。で、三ヶ月前ですかね。久しぶりにアラミゴに関する大ニュースを聞きました。かの英雄殿がアラミゴ入りし、エオルゼア三国、いえ、もう四国でしたっけ。総力を上げて帝国軍に反旗を翻した、と」 「そして先週、とうとう解放が果たされたと聞いたわけじゃな」

 それで僕は20年ぶりくらいに、自分の心の在り処が分からなくなっている。  完全な無関心ではなく、かと言ってどうしたいかというはっきりとした思いもない。 「今更僕がアラミゴに"行く"ことの利について考えてみたり、実は僕はアラミゴに"帰り"たがっていると仮定してみたり」  そう言っていて、つい溜め息が出る。こんなことであれこれ悩んでいること自体が馬鹿らしくもあるせいだ。  だが教授は付き合ってくれるようで、 「利害を基準に考えた場合の結論は、どうなったかね」  そう問いかけてくれたので、僕は出した答えを述べる。 「利はなく、害がある、でしょう。まず、渡航には金がかかります。時間もかかる。それらをかけて得られる利が釣り合うのであれば構いませんが、どう考えてみても、利はありません。夢物語のような希望……つまりは母が存命で、案外無事に暮らしているといったことですが、それが実現している可能性はあまりにも低い」  そして情という観点に立ってみても、僕がアラミゴに行くことで満たされるものはないと結論できた。  苦難の20年、一瞬たりとも共に歩まなかった僕を彼等は、絶対にアラミゴ人とは認めない。そもそも僕自身、“苦楽を一つも共にしていないのだから、自分はアラミゴ人じゃない、そう名乗ってはいけない"と感じている。自分の血も汗も涙も、一滴たりとも染みていない土を、アラミゴで生まれたというだけで踏みに行くのは、 「無意味というか、失礼というか、お門違いというか……。まあとにかく、そうすべきじゃないし、していいとも思えない。そんなところです」  そして、それならアラミゴのことを考えるのなどやめてしまえばいいし、やめうるのが道理なのに、何故考えてしまうのか。我ながら不思議で仕方ないのだ。

 教授は何事か考える顔つきでしばらく黙っていたが、やがて顎鬚を撫でながら口を開くと、 「考えても答えが見つからぬときには、行動するより他にない」  僕に、アラミゴへ派遣される調査団に加わってみないかと言った。  アラミゴ人かどうかは関係ない。目的も僕個人とは関係ない。シャーレアンに依頼された学術調査、あくまでその一員として行き、行動する。それで実際にアラミゴの土を踏んでみれば、考えているだけでは分からなかった何かが見つかるかもしれない。 「ただし、見たくないものを見、知りたくないことを知り、考えたくないことを考え、行かねば良かったと後悔するかもしれん。だが同時に、納得の行く答えを得て煩悶から解放されるかもしれんし、思ったよりずっと良い結論を得られる可能性もある。どうするかね」 「面白いお申し出ですが、僕は医者であって学者じゃありません。調査のお役には立たないかと」 「そう謙遜せんでも、君が基礎教養程度に思っていることの大部分が、十分以上に学術的内容じゃよ。それに、医者の……賢学者の出番も、ないわけではない」 「危険地帯ですか?」 「そう聞いておる。護衛に冒険者を雇う手はずではおるが、それとは別に、調査と護衛を兼任できる者がいれば心強い」  その理屈なら、シャーレアンに"賢者"と称される戦闘能力者は、僕以外にも何人もいる。僕でなく彼等を同行させてもいい。クリスタルと賢具を与えられた中で、僕は決して上のほうではないのだから尚更だ。  だが、そういうことではない。分かっている。利ではなく情で、教授はあえて僕に、この悩みになんらかの決着をつけるため、アラミゴに行ってこないかと言ってくれている。

 もう半ば以上、教授の話に乗るつもりで、僕は聞いた。 「調査する場所は、もう決まっているのですか」  途端、教授の気が固く引き締まる。  言われたのは、 「うむ。―――スカラ遺構じゃよ」  だった。

 僕の心は一瞬大きく揺れ、拒絶か混乱に振りきれても不思議ではなかったが、自分でも思いがけず、答えはすぐに、はっきりと出た。 「分かりました。行きます」  義父にあてた、父の手紙。その中に書かれていた文言。祖父が落とされたのではないかという場所だ。王宮の地下に広がるという古い遺跡で、そこは王家の宝物庫だと言われていた。だがもしそこが、テオドリックが気に食わない誰かを"落とす"場所でもあったとしたら、祖父の亡骸くらいは、今もまだあるのかもしれない。  20年も前の話で、何かが見つかる可能性は低いとしても、家族の最期を探ることなら、僕がアラミゴ人であろうとなかろうと関係ない。彼の孫として、試してみてもいいことのはずだ。  そうして僕はある晩秋の日、25年ぶりにアラミゴの土を踏むことになった。