その影に 1
『リデアン・トライオス様、ご来着です』 VAが歌うような音声で告げるのを聞き、ヴェクタス・アヴローンは少し厚みのある口下殻を僅かに開いた。 「通してくれ」 『かしこまりました』 つい笑みが溢れるのが押さえられない。 書類をひとまとめにフォルダに投げ込むと、ヴェクタスは軽い足取りで私室に向かった。
仕事に集中したいときにも訪れるこの"星"だが、本来は自分の楽しみのためだけに手に入れ、作ったものだ。 小さいとは言え星一つを買い取り、手入れをし、こだわり抜いて作り上げた"美の箱庭"。 私の星、という認識以外に必要なものはないため名前は付けていない。相応しい名を思いつかないかぎり名付ける気もなく、星図での名称は発見されたときに与えられたIX-4235のままだ。 昼の空は淡い紅色。遠くにある白い太陽はどこまでも優しく柔らかく、輪郭を見せることなく世界を照らす。 館の足元にある湖は、元からあった澄んだ湖を少しだけ改良、改善しただけで、自然のままの無作為の美を湛えている。そこからなだらかな丘と、広い広葉樹林が続き、やがて波打つ山の稜線に混じる。 夜には薄紫の空に大小二つの月が巡る。完全に暗くなることはなく、この星は常に、夜明けか黄昏のような姿をしている。
そこに建造した屋敷もまた、隅々までヴェクタスの美意識に則っていた。外観はもちろん、内装、敷物、織物、調度、小物、なにもかもが、今のヴェクタスの審美眼に叶ったものだ。 維持には莫大な費用がかかるし、新しい"お気に入り"を見つければ金に糸目はつけず手に入れている。たぶん、この星を買ったのと変わらない金をかけてきた。 その"美の箱庭"には、星の維持や必要ゆえの例外を除けば、ヴェクタスが「その一部であってもいい」と認めたものしか、たとえ一時的であれ踏み込むことは許されない。 そこに来客として立ち入りを許されているということはーーーリデアン・トライオスは、ヴェクタスにその価値を認められた者、だった。
ヴェクタスの私室は、彼が憩い休む場として、最も細心に整えられていた。 大きな窓には向こうが透けて見えるような白いレースと、遮蔽のための分厚い濃紺の手織りのカーテンがかけられている。その先のバルコニーには瀟洒なテーブルセット。ヴェクタスは自分の手で茶を用意する。この星、庭、館に入れてもいい料理人というのがいないかぎり、身の回りのことはすべて自分で行うのだ。 部屋の隣には簡易的なキッチンもある。さすがに美しさよりも機能性を選んだ。プロの料理人であればともかく、素人の手慰みで使うには、扱いやすさや分かりやすさが最優先だ。さもなければ、出来上がる料理に納得がいかなくなる。とはいえそれも彼が許容できる範囲でのことで、簡素ではあるが見目よく洗練されていた。 ヴェクタスはそこで、客のため手ずから簡単な焼き菓子を作り始めた。
この館に入ることを許した以上、そのすべてが、何もかも、そのままでヴェクタスに許されている。 挨拶の必要はない。どこに座るかも自由。疲れているなら隣の部屋の寝台で眠ってしまってもいい。 だが彼は律儀に名乗り、訪いの挨拶をし、ヴェクタスが言うまで座ることもしないでいる。そしてそれもまた、“彼のありのまま"として受け入れられている。 「座って少し待っていてくれ」 言うと、そのとおりにする。来客用であると分かりやすいソファにリデアン・トライオスは腰を下ろすだろう。見なくても分かる。そして、深く腰掛けることはなく、まっすぐに座る。いかめしくもなく緊張もしていないが、リラックスした様子もない。 仕込んでおいた生地を型に入れて成形し、オーブンに入れる。ヴェクタスが先に香草茶の乗ったトレイを持って部屋に戻ると、彼は思ったとおり、そしていつもどおり、まるで映画のシーンを何度も再生しているかのようにぴったりと、そこにいた。
「それで、今日はなんの"おねだり"かな」 本題に入る前に会話を楽しむ、という必要はない。本題の会話がヴェクタスには楽しい。リデアン・トライオスと話すことそのものに、既に価値がある。ならば、自身も客も本来は忙しい身なのだ。無駄をする時間は少なければ少ないほどいい。単刀直入に尋ねる。 と、リデアン・トライオスは、 「私のために、便宜をはかってください」 最終結論を口にした後、それを要する理由と、具体的な内容を述べた。
「貴方もご存知のとおり、今この銀河は異様な事態になりつつあります」 ”リーパー”なる存在。伝承上の怪物と言っていいようなものが実在し、しかも姿を現した。 今のところ、辺境の、ヒューマンの一部が騒いでいる、というだけの認識だ。彼等しか見たことがなく接触したことがなく、話の内容が荒唐無稽すぎて、銀河評議会もどこまで信じるべきか判断しかねている。 だが、商人としてあらゆる情報を活用するヴェクタスは、とっくにそれが"真実だ"と考えていた。遠からずリーパーは姿を現しこの銀河を蹂躙するという、リデアンの話に今更驚くこともない。
ただ、この稀有な軍人を、だから君が好きなのだと改めて思う。 リデアンは「貴方もご存知のとおり」と話をスタートさせた。彼はヴェクタスがリーパーについて知っていることを前提にした。正しい認識だ。そして、知っていながら動かないヴェクタスを、責める気配もない。
その、完全な合理だけで判断する機械のような、それでいて生身の強さ、脆さも感じさせる客は、間もなく始まる大きな戦いに参加することをもう決めている。 だが驚いたことに、リデアンは軍を除隊したと言った。 「これから戦うというときにか?」 問うと、 「軍は明らかに状況判断を間違っています。ソヴリンをご存知でしょう。あれを皆、ドレッドノートだと考えている。ですが実際にはフリゲート、ともすると戦闘機程度のものでしかありません。リーパーが本格的に侵攻を開始すれば、おそらく、最初の数日で銀河の主要都市の大半が陥落します。そうなったときに必要なのは、上層部だけを守る盾ではありません」 言われればすぐさま思い描けた。そうなったときお偉方は誰よりも早く最も安全な場所に避難し、そして無敗の英雄は彼等を守るためだけに使われるのだ。 軍は何よりも大きな後ろ盾だが、同時に足枷でしかない。その枷から自由になるためには、得られる支援ごとすべて捨てるしかなかったということだった。 そのためリデアンは除隊し、今は、フリーの傭兵となっていた。 「ということは、すべてが自前か」 「はい」 装備の多くは買い取って専用のものとしているため一から揃える必要はないものの、破損しても支給はされない。移動にかかる諸費用はもちろん、あらゆる携行品、消耗品、すなわち兵站も自己負担になる。
リデアンがヴェクタスに求めるのは、軍に代わる後ろ盾になることだった。 具体的には、“自分に必要なものを、自分の行く先すべてに用意すること"を求めた。移動手段や装備は当然として、なにより、 「私の……この体のケア、メンテナンスが可能な設備が必要です」 それまでずっと、自分が口にする話の内容を監視するように少し下へ向けられていた視線が、真っ向からヴェクタスに向く。 言葉が途切れる。 リデアンも、さすがに判断しかねたのだろう。そんな特別なものを用意させたい自分の身について、説明するべきかどうか、ヴェクタスがどこまで知っているのか。
ヴェクタスは少しだけ話を逸らすことにした。 「やれやれ。今までで一番大きな買い物だな。一度ではなく、行く先々で、とは」 前線やそれを支える拠点には、当然、一般的な医療設備が用意されている。 だが、彼の体はそれでは処置しきれない。それが問題なのだ。 もちろん、ヴェクタスは知っていた。 リデアンはあるときに、一般に知られるサイバネティクス処置とは違う、より高度で特殊なそれを受けている。ヴェクタスは、十年前にリデアン専用の電子制御装備、DSRの開発を請け負ったときに、彼の体が特異な状態にあることを知った。 その特異性とは、現行銀河よりもはるかに高度で緻密、繊細な機械化だ。そして長い年月の間 謎だったその処置の主も、今は明らかになっている。 現行文明をはるかに凌駕する、機械生命体、”リーパー”である、と。 リデアンに必要なのは、リーパー機構が混じる体をメンテナンスできる設備。彼はそれを用意してくれと言いたいのだ。
それを実現するために何が必要か、そしてそれにどれくらいの金がかかりそうかを考える。 無理だ、という返事はない。 基本的な経費程度、ヴェクタスにとってはポケットマネー以下の小銭にすぎない。必要であれば専属のバックアップチームや、同行する部隊を揃えることもできる。 DSRのような特殊装備を開発できる私設機関も既にあるし、そこにはリデアンの特異性に関するデータもある以上、メンテナンスシステムを作ることも可能だ。そして、それを移設可能な設備として設計、運搬する手筈も整えられる。
問題は、それらを主要な戦地、つまりはトゥーリアン軍や他種族の軍の中にねじ込むことだ。 独立傭兵であろうと組織傭兵であろうと、戦場で完全な単独行動は許されないし、現実的でもない。ある程度の連携は必要だ。身の回りの武器や携行品ならば多少大荷物だろうと気にされまいが、さすがに”部屋”を持ち込むとなれば何事かと思われる。厳重にチェックもされるだろう。 それがリーパー由来の技術に基づいていることなど、知られるわけにはいかない。問答無用で受け入れさせなければならない。目をつぶらせ、口を塞がせる必要がある。 そのための金と権力を、ヴェクタスは持っている。ただしそんな無理を押し通せば、多方面に大きな借りを作る。 そのリスクに見合う対価が必要だった。
「いいだろう。だが、高く付く」 ヴェクタスの答えに、 「承知しています」 リデアンは短く答える。その表情は冷たく整ったまま変わらない。 内心はどうあれ、こんな取引ははじめてではなく、彼は分かっていてここに来たのだ。 対価は、決まっている。 彼自身……その身そのものだ。 今までもずっとそうだった。 そして今回もその極上の対価を、ヴェクタスは存分に楽しむことに決めた。
一晩の対価として、小さな国の国家予算に匹敵するような金を動かしたことがある。40兆クレジット(4000兆円)もの資産を持つヴェクタスには、”ちょっとまとまった出費”程度のものだが、世間的には莫大な額であることも事実だ。 それだけの価値があるリデアンを、彼が戦いに行くまでの間ずっと、傍に置くことにした。 これまで彼は、用があるときにヴェクタスを訪ねてくるだけだった。 ”セリオの王”、あるいは”銀蛇の王”、”双面の蛇”と呼ばれるヴェクタス・アヴローンは、銀河の一部を事実上支配し、億単位のクレジットを即座に動かすことができる。どんな相手だろうと会話の場に引きずり出せる。そんな存在が必要になる事態などそうそうなく、ヴェクタスが覚えているかぎり、この20年で7回だ。 そのたびごとにヴェクタスは対価を求めたが、最も長くて、三夜だった。 だが今回は、今の時点で既にひと月の間、リデアンはヴェクタスのもとにいる。
高価な買い物の支払いをどうするかと迷ったとき、リデアンのほうから言い出したのだ。 軍属でない以上、時間はあるし、それをいつ何にどう使うかも選べる。だから、支払いのために繰り返し足を運ぶことも、とどまることもできる、と。 「自分がなにを言っているか、分かっているのか?」 尋ねると迷いもなく「はい」と言われた。だからその案に乗った。 契約はシンプルだ。”外出する必要があれば行って構わないし、優先していい。だがそれ以外は、この星に、この館に、この私のもとに戻って来て、ここにいること”。 姑息や卑怯と無縁の彼は、外出の用事を無理に作ることはなく、無論、ヴェクタスの要求を拒むこともない。 呼べば来る。触れれば察する。そして黙って体を開く。 これまではスパンがあったため、そのたびごとに馴らさなければならなかったが、今回はその必要がない。 前夜の名残すら、まだ体の奥に残っているだろう。 だが出掛けていく彼にはその気配は微塵もなく、帰還した姿も淡々としている。
ヴェクタスは今夜もリデアンを呼ぶ。 淡い紫色の夜に、あえてカーテンを閉め、室内のライトを灯す。 オレンジ色の柔らかな光は、どこに光源があるのかはっきりしないほどぼんやりと、しかし影すら生まないほどまんべんなく室内を照らす。 リデアンのコートを、シャツを、ヴェクタスはゆっくりと自分の手で脱がせていく。 ヴェクタスもかなり大柄なトゥーリアンだが、リデアンはそれを越える偉丈夫だ。だが、いかつさとは無縁で、幅も丈もあったとしても、しなやかで洗練された印象しか与えない。
「……初めて私のもとに来たときには、小柄だったのだがな」 と、広い背中を見ながらヴェクタスが呟く。 思い出話を、話題として使ったことは今までにもある。だが、ふとただ単純に、したくなって口をついたのは初めてかもしれない。 「覚えているか、と聞くのも野暮か。君にとっては人生で一度もしたことのない決断、“初めて"だったのだしな」 リデアンは何も言わないが、僅かに背中が緊張し、すぐに諦めて弛緩した。思い出したくないことでも、ヴェクタスが語りたいならそれを聞くのも"取引"の内、ということだ。
いたぶるつもりはない。だが少し意地が悪いとしても、あの日の出来事を改めて思い出させたかった。 少年ではなくとも、まだ幼さの欠片が残る、成長しきらない若い士官だ。しかも今のリデアンとは逆に、人並みよりも小柄で華奢な、ほっそりとした体つきをしていた。 彼が、いったいどうやったのかヴェクタスの連絡先を知り、力を借りたいと言ってきた。公人として、いくつかの間接的な連絡先は銀河中に公開されているが、個人のアドレスは一切記していない。 そんな疑問もあったが、モニター越しに見た姿に、とりあえず会うことはすぐに決めた。 「こういう言い方は不快かもしれないが、毅然とはしていても、可憐だった」 巨大な相手の懐に飛び込む覚悟をした、美しい若者。決意は堅く、覚悟は切実で、そして、会談がうまくいかないならすぐ次の手に取り掛かるしかない、という焦燥もうかがえた。
若いリデアンの頼みは、封鎖された軍用港の開放だった。 そこが鎖されたままでは、傷ついた軍艦が燃料も乏しい状態で離脱することになる。だが補給ステーションは遠い。そして、複数種族の敵意と思惑の中にある辺境の星域で、トゥーリアンの軍艦を降ろし修理と補給を許すというのは、ほとんど無理な注文だった。 自身の親しい者が乗っているわけでもない。政治的な大物が乗っているわけでもない。しかし、3000人が死ぬ。諦めるには大きな数で、そしてリデアンは、その宙港、その星そのものの開発にかかわり、絶大な発言権を持っている男がいることを知った。 何がなんでも救わなければならない命、というわけではない。だが、ヴェクタスさえ承諾してくれれば、助かる命なのだ。
だから来た。 そして彼は、自分とは無関係な3000人を救うため、心理的には極めて困難であったとしても、行動としては極めて簡単なことを、対価として引き受けた。 一晩、ヴェクタスの性の相手をしたのだ。 告げたときの反応からして、彼はこの見た目のため、既にそういう邪な思いにはさんざん触れてきたのだろうと知れた。視線は日常のことで、不埒な上官がいれば、触られるくらいのことはあったろうと思う。 ただ、トライオスと言えば歴史にも名を残す名門軍閥だ。たとえここ数世代はぱっとしなかったとしても、その末裔に手を出す馬鹿もいるまいと思ったとおり、彼は何も知らなかった。 屈辱なのか絶望なのかは判然としないが心の苦痛に耐え、そして、未開発の体が受ける痛みにも耐えて、リデアンはヴェクタスに応えた。
生理的な反応でもあっただろうが、泣いていた。だが泣き言は言わなかったし、怒りや憎しみといった個人的な感情を出すこともなかった。 表れるのは、こうしている間にも取り返しがつかくなるのではないかという焦燥で、ヴェクタスが途中で通信を数本、それで強制的に港を開かせると、ようやく落ち着いた。 疲労と消耗のため自然と意識をなくし、目が覚めたとき彼が真っ先にヴェクタスをうかがったのも、どれくらい時間がたったのか、船はどうなったのか、そういう目だった。
「ーーーあの夜のことは、できれば正確に録画して残したいくらいだが、心配せずともそんな危険なことはしていない。せいぜい、私がこの目と記憶に焼き付けたくらいだ」 隅々まで。男どころか女にも触れたことのない無垢な体を、残酷だとは承知であますところなく鑑賞した。衣服に隠されている部分も完璧に美しくできており、 「冗談なしに、神が手ずから創作した傑作か、とね。思ったものだ」 自分自身ですら見たことのないような場所を他人の目にさらし、広げられ、触れられる。そんな酷い苦痛を強いたのも、苦しめたかったからではなく、その姿を見たかったからだ。高潔な軍人になるべく育てられて来ただろうに、こんな有り様。落差からくる屈辱と絶望がどれほど深くても、健気にそれに耐え、そして、やがて諦め、受け入れていく姿。
二度目に現れたときは既に、自分の体にまた価値があるなら差し出す、という覚悟を決めていた。たしか最初のときからは二年後だ。背が伸びて、ヴェクタスとほぼ変わらなくなっていることには驚いた。 だからといって興が削がれたわけではない。そして、ヴェクタスが今もまだリデアンを館の中にさえ入れるのは、彼には変わらず価値があるからだ。 「君はたしか、今年で43……に、あと少しでなるはずだな。とてもそうは見えないが、それにしてもあれから20年もたっているのに、何故私はまだ、君にこんなに惹かれるのか」 鍛えられた体。戦いでついた傷痕もある。そして見えないところには、得体の知れない何か、リーパーの一部も混じっている。 だがそれでも。 指の甲でゆっくりと背中を辿る。 「君はやはり、”パーフェクト”だ」 そうとしか言いようがない。
だから、 「さあ、楽しませてくれ」 腕を前へ回し腹を撫で、口殻の隙間からのばした舌先で首筋に触れる。 それからリデアンを寝台へ導くと、大柄でもしなやかな体をその上で寛がせる。 彼の体が行為に馴染んだのも、これが人生で初めてのことだろう。だが心は到底馴染めないのを、彼はほんの僅かな硬直や震えとして漏らすだけで、黙って受け入れている。 下衣の留め具をはずして中へと手を這わせれば、伝わるのは拒絶だがそれを言葉や行動にすることはない。 恥骨をなぞり、膨らみの上の開口部を撫でる。中にある芯を挟むようにしながら押し付けると、敏感な先端が覗く。外被殻から顔を出したそれを、ゆっくりと円を描き撫でてやりながら引き出してやる。リデアンの腰が揺れ、詰まった吐息が零れた。
孤高の、高潔で無敗の英雄も、このときだけは快楽に翻弄される一人の男だ。 そして、それより下、脚の間の奥にある箇所に指を当てれば、反射的にびくりと震えるのは、めったにもない恐れだろうか。 何度繰り返そうと怖いのは、男としての尊厳を崩されることか、それとも、これからもたらされる快楽のほうだろうか。 通常であれば必要なだけしか使われないし開かない、閉ざされた門、今はそこへ、少し撫でてやるだけで、容易く指先が沈み込む。 リデアンの口からまた微かな声が零れ、息が途切れる。
高額かつ持続的な買い物の対価には、まだまだ足りない。 ヴェクタスは横たわる美しい獣を、今夜もまた、心ゆくまで堪能することにした。