ルルナ・ルナと冒険者たち 01

 世界規模で見れば、光の戦士の戦いは世界を救うもの、帝国の脅威を払いエオルゼアを護る尊いものである。  だが一介の冒険者にとってそれは、報いの乏しい戦いだった。  彼等が先導する戦いには大義があり、崇高さがあり、それゆえに若い冒険者の多くが、同じ冒険者として光の戦士に続け、遅れをとるなと追従した。それ自体をフィルは咎めようとは思わない。だが、”若い”とはほとんどの場合、”浅慮”と同義なのだ。  一年前のイシュガルドでの首都防衛戦にどうにか形がつくや否や、今年はアラミゴでも大規模な反帝国戦が起こった。東国ドマでも同じく、帝国支配に対する反乱が起こっている。それらに名乗りを上げた冒険者たちは、英雄の率いるパーティに及ぶことはないとしても、それぞれに奮戦し、間違いなく彼等の偉業の一助となった。だが、末端で命を賭けた彼等のことは歴史に記されることもなく、彼等にもたらされたのは大義のために戦ったという自己満足と、直接救われた者たちからのいくばくかの感謝、そして―――金欠だった。  Cランク以上のベテラン冒険者はいい。彼等には一ヶ月やそこら無料奉仕で戦っても、飢えないだけの蓄えもあるだろう。だがDランクの冒険者がそれをするのは無謀だ。そのうえ、まるまる一ヶ月間ギルドの依頼を一つも受けずにいて、降格された者も少なからずいる。大義のために戦ったのに、と言われてもギルドは聞かない。大きな戦いがあれば身近な困り事は無視してもいいのか。それを是としない以上、ギルドにとって冒険者の不在は、ただの責任放棄である。  もっとも、金欠や降格は、生きて帰ることがかなった者の贅沢な悩みや憤りだとも言える。

 ウルダハのギルドに集う若鳥たちも減ってしまった。  傷んだままの防具を身に着けている者も多く、良い仕事がほしいという思いから、自然と依頼の取り合いに余裕がなくなり、雰囲気も剣呑になる。  街で出会ったモモディに耳打ちされてその光景を見に来たフィルは、ラッシュアワーが過ぎたカウンターでぬるいエールを飲みながら、どうしたものかと溜め息をついた。 (俺が援助することはできるが……)  フィルは幸いにして金持ちだ。彼等が分不相応に使った交通費、傷ついた装備の修繕費をくれてやることはできる。  だがそれは彼の、ウルダハの古参冒険者の望むやり方ではなかった。  可愛がり大事にすることと、甘やかすことは違う。自分たちのような"持てる者"が上から手を貸してやるのは、やむをえない場合に限る。  今回の金欠は、英雄に憧れ、心打たれ、あるいは張り合い、それとも嫉妬して突撃した彼等の自業自得なのだ。行き来にも滞在にも金がかかること、報酬のない戦いに参加すればただ金が出て行くだけになること、そういったことを考えず、あるいは「大したことはない」と後回しにした彼等自身の判断のツケである。自分で撒いた種は自分で刈り取らねばならない。痛みとともに学んだ教訓が、彼等をその分賢く逞しくしてくれる。  フィル自身、若い頃は考えが足りず後になって苦労したことなどいくらでもあって、だからこそ、身にしみて学んだのだ。今自分が、Aランクにいるのはそうした実感を積み重ね、糧にしてきたからだとも思っている。  自ら招いた苦難に耐えられず脱落していくなら、それまでの者だったということだ。たとえ―――傷んだ装備のまま無理な仕事に出て命をなくしたとしても。

 幸い、フィルが顔見知りの、ともすると目をかけている若者たちは無事だった。考えなしに英雄の後追いをするほど子供でなかったのか、あるいは英雄サマに反感を持つからなのか、他になにか考えたことがあったのかは知らないが、安易に英雄の追従者にならなかったのが幸いした。  日常に居残った中の一人が、今日も元気に掲示板を見に来ている。彼女ももうDランクだ。朝一番に、必死になって小銭稼ぎの仕事をあさらなくてもちゃんと食べていけるようになった。だからこそ、朝一の仕事探しは後輩たちに譲り、こうして昼にギルドを訪れる。  顔見知りの者たちがそうやって無事なのはいいが―――。  フィルは溜め息をつく。自業自得とはいえ、彼等は彼等なりに、自分たちが正しいと思うこと、誰かのためになることをしようと精一杯の判断をしたのだ。それが後々まで尾を引いて、ここからまた命の危険にさらされるのを黙って見ているのは、やはり気分が悪かった。

 若者たちがその都度、どうすべきかの判断を求められているのと同じく、自分がどうすべきなのかをフィルもまた考え、決めねばならなかった。  直接的な資金援助などというのは愚策も愚策として、救いの手は同じ冒険者でないところからのほうがいい。  理想は”国”だが、冒険者ギルドは国に戦力を出せと言われないため、一種の自治権を持っている。その代償は、国になにも要求できないことだ。国益になることであれば検討の余地もあるとしても、冒険者への補償など絶対にしてくれない。  裕福な商人をあてにするのも無駄だ。彼等は投資ならばしてくれるだろうが、慈善は施さない。もし今無償でなにかをしてくれたとしたら、将来大きく膨れ上がった返済を、なんらかの形で求められるに決まっている。それがウルダハである。  フィルがその「裕福な商人」の一人でありながら、若い冒険者をできれば助けてやりたいと思うのは、彼等と同じ冒険者でもあるからだ。フィルにとって「冒険者」は、真っ当な職につけない落伍者でも、ならず者と大差ない乱暴者でも、適当に使っておけばいい道具でもない。そんなふうに思われがちな、後ろ盾もなにもない冒険者たちこそ、皆、かつての自分と同じ苦労をする者、そして可愛い後輩である。  なんとか助けてやりたい。甘やかしにならず、彼等の痛み、教訓を奪わないように。 (……とすると、やっぱりあれしかないか)  完全な解決にはならなくとも、いくらかの緩和はできるだろう。あとは相手が同意してくれるかだ。フィルは耳の後ろに挟んだリンクパールに触れ、とある回線を開いた。