日々彩々 6

母親のことを思い出す話。 そして二人が再びセックスするようになる始まり。

幻覚の中にある「首を絞める」行為のは、簡単に殴り殺すこともできるし撃ち殺せもするヴァレスの行動ではない。無論、ヴェクタスもしたことはない。では誰か? 考えられるのは、完全な妄想か、さもなければ、母。

リデアンに突きつけられる、誰一人として自分を愛してくれた者はいない、という現実。 確証はないとしても、そうでなかったという証もない。 耐えなければならないけれど耐えかねて、しかしヴェクタスに「傍にいてほしい」「抱きしめてほしい」と要求できないリデアンが言ったのは。 「セックスしませんか?」

対価なしでは何一つ求められない。 抱きしめているだけでもいいじゃないかと言いたくても、リデアンにはそれが"負債"、不平等な取引になってしまう。 そう理解したヴェクタスは応じる。

最中に、相変わらず背中を抱き返してこないリデアンを、背中を抱き返してと促すのだが……。 すがりつくように強い力を込められて、ヴェクタスは気付くことになる。

「その影に」の中でも同じシチュエーション、「恋人ごっこしてくれるつもりがあるなら、言わなくたってやってくれればいいのに」と思うシーンがある。 しかしそれは、「したくないけど、促されたらする」ではない。 「本当は抱きしめたくても、すがりつきたくても、許されないからできない」だった。

そしてヴェクタスは気付くし、リデアンも気付く。 リデアンがヴェクタスのもとを訪れていたのは、取引のためであり、要求を"安価で"叶えてくれる相手だからでもあったが、もう一つ。 抱きしめてくれる相手だったから、だと。

取引の対価に体を求めるような、「こんな男しかいなかったのか」と打ちのめされるヴェクタス。 「自分から選んだ」というリデアンの言葉に、意味が増える。取引相手として。そして、抱きしめてくれる人だったから。

改めての取引。契約。 こうして私のものになってくれるなら、私もまた君のもの。 都度の支払いはしなくていい。だから、ほしいときには手を伸ばせばいい。 いくつめかの夜に、まとめて払ってもらうから。